SSブログ

ゆめのくにへ かえっていく

  あさ谷川俊太郎.jpg

 カムチャッカの若者が きりんの夢を見ている時
 メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている
 ニューヨークの少女がほほえみながら 寝返りをうつとき 
 ローマの少年は頭柱を染める 朝陽にウインクする
 この地球では いつもどこかで 朝がはじまっている
 ぼくらは朝をリレーするのだ 緯度から 緯度へと
 そうしていわば交替で地球を守る 
 眠る前のひととき 耳をすますと
 どこか遠くで 目覚まし時計のベルが鳴っている
 それはあなたの送った朝を
 誰かがしっかりと受け止めた 証拠なのだ

 谷川俊太郎
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

帰れぬ故郷

 おまえが知っている大地を失い、
 大いなる認識へと。
 おまえが生きている命を失い、
 より偉大なる命へと。
 おまえが愛した友のもとを去り、
 より大きな慈しみへと。

 故郷よりも優しき土地へ、
 大地よりも大いなる土地へ。

 トマス・ウルフ『帰れぬ故郷』より

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

青山通りのどこかの店で

 ファミチキセール2019.JPG

 この時期になると、ふと「今まで食べて一番美味しかったものは何だろう」と考える。
 いろいろな場所に行けば名物に会える機会も増えるし、少しだけれど高級店にも行けるようになった。歳とともに変わる味覚もある。
 でも今のところ、まっさきに浮かぶものは変わらない。それは、ブランド牛でもウニやイクラでもない。
 ファミチキである。

 8年前の3月11日、仕事で錦糸町駅前にいた時、あの強い揺れがやってきた。スタッフ3人と共に、会社にも家にも帰れなくなった。
 交通機関はまったく動く気配がなく、そのうち夜になって、仕方なく泊まれるところを求めて歩き始めたものの、寒さと空腹感でまいってしまっていた。どこに行っても食べ物はなかった。

 そんな時、たまたま入ったファミリーマートで、「ただいまファミチキが出来上がりました」という信じられない掛け声に遭遇した。
 今でもよく覚えている。スタッフと共にすぐに買い、一緒に食べた。温かい、本当に温かな食べ物だった。みんな笑顔になった。世の中にこんな美味しいものがあるんだ、と思った。

 その後1年くらいして、あの味がどんなものだったか確かめるべく、ファミチキを食べてみた。思いとは別に、たいした味ではなかった。
 違和感を覚えたまま、それ以来食べていなかった。

 先週、ファミリーマートの前を通りかかったら、「ファミチキ・セール」をやっていた。
 ちょうど3月11日のことを考えていた時で、また食べてみようと思い立った。一度食べて駄目だった時は、何かの間違いだったかもしれないのだ。
 温かいまま、すぐに外で食べてみた。
 はたしてその味は、やはりたいしたものではなかった。黙々と最後まで食べた。

 でも、と思う。
 それが何だというのだろう。
 今でも自分は、「何が一番美味しかったか」と聞かれれば、すぐにファミチキと答える。
 震災のあの夜、青山通りのどこかの店で、みんなと肩を寄せ合って食べたファミチキが、どんなに心を満たしてくれたことか。
 それはたぶん、これから先、もはや超えることのない味なのだ。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感